H E L M I

わたしの日々のこと

「3世」な彼女のこと。

中学生の頃、同じクラスに小柄でちょっとやんちゃんな男の子がいた。その子はある装身具を身につけていて、それは校則違反のはずなのに許されていた。お祖母ちゃんの形見か何かでとても大切な物だから、ずっと身につけていなくてはならない、そんな理由だったと思う。

彼女は転校生だった。正確にいつ引っ越してきたのかは覚えていない。不思議なことに彼女は、小柄でやんちゃな彼と既に顔見知りで、彼と同じ装身具を身につけていた。だからはじめは、親戚なのかなと思っていた。ふたりを繋いでいたのが宗教だと分かったのは、いつだったか。彼は隠していたけれど、彼女は積極的に隠してはいなかったように思う。

彼女と仲良くなり同じ高校に進学して、わたしは彼女との時間がもっと欲しいと思った。退屈など田舎の町で、自分と同じように洋楽を聴き、バンドのことやミュージシャンの話を延々とできるような相手は、彼女の他にはいなかった。

だけど彼女は忙しく、なかなかわたしとは遊んでくれない。その頃はもう、彼女はある宗教を信仰していて、彼女のお母さんとお父さんは宗教を通して出会っていて、お祖父ちゃんお祖母ちゃんもまた……ということを聞かされていた。紛うことなき宗教3世だった。何をしているのかは全く分からないけれど、信仰仲間との集まりが常に最優先で、わたしや学校の友達はいつも二の次だった。

ある夏、わたしとももっと遊んで欲しいと、多分どストレートに伝えたのだろう。どういうわけか、宗教の「サマーキャンプ」みたいなものに参加することになった。勿論何をするのかは全く分からなかったが、「来る?」と言われて断る理由など無かった。

「サマーキャンプ」と聞いて思い浮かべるもの。森とか海とかテント。飯盒炊爨、キャンプファイヤー。そんなものは当然ながらひとつも無かった。宗教団体の施設で寝泊まりし、食事も出てくる(だった思う)。唯一最終日にみんなで焼きそばを焼いて食べようとなったのが「サマーキャンプ」ぽい出来事で、その時、買ってきた紅生姜が赤すぎるから、と添加物を排出するためにひたすら紅生姜を絞っていたひとがいたことを、よく覚えている。

そう言えば彼女のお弁当はいつも同じおかずで、華やかな色のついたものが入っていなかった。その理由が分かった気がした。

亡き教祖が生きていた頃の映像を観たこと、焼きそばと紅生姜、お風呂場の脱衣所にあった装身具をしまうための設え、そして、その「サマーキャンプ」には、小柄でやんちゃな彼も参加していたこと、その4つが思い出だ。感想は「驚いた」以外になかった。

大学進学で彼女は田舎を出て行った。それは宗教に関する進学で、卒業後も宗教に関する就職をして、宗教を通じで出会った男性と結婚して出産した……と聞いた。

今はもう、連絡先も分からない彼女。自分の信仰に迷いのなかった彼女。わたしよりも信仰仲間を優先していた彼女。「サマーキャンプ」に誘ってくれたのは、優しさだったのだろうか。「宗教2世」の話題を見るたびに、彼女のことを思い出す。